Part 3キホンのキ
ねじの6要素

ねじの6要素④:ねじ部形状

ねじの6要素④:ねじ部形状

使用するねじの用途で選択すべき形状は変わってきます。主なねじ部形状としては、ナットといった「めねじ」(穴のねじ山)とセットで使用する小ねじと、「おねじ」(軸のねじ山)を使用してめねじを作るタッピンねじがありますが、建材向けのねじを中心に対応している相手材が異なる場合もあるため、製品の注意書きなどあれば注意して読むようにしましょう。 冒頭の規格の話で紹介したメートルねじが一般的なねじとなっており、ミリメートルの長さから、5mmであればM5といったようにねじの太さを表すルールとなっています。もちろん規格が異なると勘合しませんが、同じメートルねじ同士でも、ねじ山の頂点と頂点の間隔(ピッチ)に並目、細目といった種類があり、ピッチが異なると勘合しないため、注意して使用するようにしましょう。なお細目はねじ山の角度(リード角)が小さいため、並目と比べて緩みづらく、軸部も太いため強度が高いというメリットがありますが、作業性が悪いなどのデメリットもあるので、ほとんどの場合は並目が使用されています。 昭和に建物や家電などの大量生産が始まると、ナットや下穴のめねじ加工が必要な小ねじから、作業性の良いセルフタップが行えるタッピンねじがさまざまな製品に採用され大量に使用されるようになりました。ただし大量生産の時代となると、1日に何千本も電動ドライバーで締め付けることで、作業者が腱鞘炎になるトラブルも出てきたため、トルク(ねじを回転させる力)が低くなるオニギリ形状のねじ山や、自分で穴をあけてセルフタップするドリルねじといった米国の特許を使用した使いやすいねじ部形状が日本でも普及していきました。

当初1966年頃に国内で生産し始めたドリルねじの先端は、先端を刃物で削って作られていたため、当時の加工技術ではばらつきが多く、使い勝手が悪いものでした。1976年頃になると、得意分野であった冷間鍛造技術を用いた株式会社神山鉄工所が、ドリルねじの先端加工のプレス化に成功し、今日では総合的に使い勝手の良いプレスタイプのドリルねじが主流となっています。

ユニポイントⓇ 刃先UP

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最新TREND

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近年ではトータルコストの低減を目的とした製品の薄板化や、プラスチックを活用した製品の樹脂化が行われており、それらに対応したねじや作業性の改善、新たなねじのゆるみ対策といったさまざまな製品が開発されています。例えば薄板を締結する場合は、板の穴を盛り上げてねじ穴を作るバーリング加工が一般的ですが、バーリングが不要なねじも開発されています。また建材向けでは、サイディング材を下地鋼板に締結する場合に使用するリーマ付(羽)ドリルねじの改善品として、逆回転で穴あけを行い、正回転でねじ締結を行う「逆刃ドリルねじ」といった施工を考えた新しい製品が生まれています。

逆刃ドリルねじの写真

逆刃ドリルねじ

ゆるみ対策のねじとして、株式会社リネックスでは「TRIBOⓇ」という新たなねじを販売しています。この製品はボルト単体でゆるみ防止効果がある「モーションタイトⓇ」を採用しており、ねじ山がたわむ構造により、ねじの接触面が増え、ねじの回転によるゆるみ防止力が高く、衝撃や振動に強いねじ山になっている。締め付ける力(軸力)も安定して発揮できるため、ねじ山のみでゆるみ防止効果がある利便性が高い製品です。また「TRIBOⓇ」は複数の特許を組み合わせ実現したねじで、前述の耐遅れ破壊特性に優れた合金鋼や、「LH-SSⓇ」といった新たなリセスを組み合わせた設計の自由度が高い製品であるのが特徴です。

TRIBOⓇ Produced by LINEX 逆刃ドリルねじ/TRIBOⓇ Produced by LINEX

ねじの6要素⑤:サイズ

ねじの6要素⑤:サイズ

ねじのサイズのポイントとしては、規格品の種類によってねじの径(太さ)や長さで市場性のあるサイズが異なっている点が挙げられます。次の表を参考にしてください。

ねじの種類 表

表からわかるように、径も長さも太く長くなると、2飛び、5飛びと市場性のある長さが変わってきます。これ以外のサイズも流通していますが、コストが割高になる傾向があります。 またねじのサイズで分かりづらいモノとして「半ねじ」と「全ねじ」があります。ねじの種類によって両方ともサイズがある場合もありますが、「半ねじ」は固定したい被締結物を引き寄せて、密着させて締結することができ、隙間が生まれないというメリットがあります。「全ねじ」は締結物両方にねじが利くため、不測の事態で頭部が破損してしまっても締結力がなくなることがありません。それぞれの特徴を考慮して使用することをおすすめします。

ねじの6要素⑤:ねじの表面処理

ねじの6要素⑤:ねじの表面処理

ねじの表面処理で一般的なものが「めっき」です。古くは奈良時代に東大寺大仏へ施された装飾用の金めっきがあり、美観や防錆以外にも、硬さ、耐摩耗、導電性といったさまざまな特性を付与することができるため、とても奥深いモノと言えるでしょう。 ねじの表面処理のポイントとしては、鉄製品に施されているめっきの多くは「電気亜鉛めっき」で、時間制限のあるバリアだと考えてください。鉄の表面に亜鉛を付着させて、クロメート処理という処理を行うと、白銀色や黄色といった色調のめっきが施されます。鉄は水分があると化学反応を起こして赤錆として腐食してしまいますが、鉄より水分と反応しやすい亜鉛がめっきとして存在しているため、亜鉛が白錆として先に腐食して、鉄の素地を守ることができるのです。これらを犠牲防食と呼びますが、沿岸部の潮風による塩分や、汚れやキズがあると腐食が速く進んでしまうため、注意してください。 表面処理で大きな動きがあった時期としては2006年に施行されたRoHS指令が挙げられます。これらは特定の有害物質の使用を制限するEUの法律で、輸出産業の盛んな日本は自動車から弱電分野まで幅広い業界で影響があり環境対応を求められました。有害な六価クロムが含まれているクロメート処理から、RoHS対応の三価クロメートに切り替わっていき、現在は黄色の色調の六価クロメートなどは、国内向けのねじに使用されています。

最新TREND

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近年ではコストと性能のバランスを取る動きがトレンドになってきています。ステンレスが採用されていた使用環境でも、材料高騰などの影響を受けて素材を鉄へ変更しめっきを施すケースとして、「カエラーⓇLB」や「ディスゴⓇルナ」と呼ばれる表面処理が、建築関連を中心に広がりを見せています。亜鉛ニッケル合金めっきや溶融亜鉛めっきという処理にコーティングを組み合わせて、ステンレスに負けない耐食性を実現しており、締結品の長寿命化を目的として高い評価を受けています。またステンレス用の表面処理としては、硬さはあるがステンレスの中では耐食性が低いSUS410への表面処理を施して、高い耐食性と性能向上を実現した「ブランカ」という表面処理もあります。表面が硬く焼付(カジリ)が起こりづらいため、従来ステンレス鋼板に下穴無しで締結ができなかった使用環境でも対応可能であり、耐食性だけではなく作業性向上といった機能面でも表面処理が活躍しています。

カエラーⓇLB/ディスゴⓇルナ「NETIS KK-210069A」/ブランカ の写真
カエラーⓇLB/ディスゴⓇルナ「NETIS KK-210069A」/ブランカ の写真

ねじに困ったら…

今回はねじの6つの要素にスポットを当てて、仕組みと注意点、歴史的な背景や最新のトレンドを紹介しました。世の中の変化に合わせて変化するねじの面白さを感じてもらえたでしょうか。また身近に使っているねじにも、色々なメカニズムがあることに気づいてもらえれば、ねじのトラブルも減ると思われます。 株式会社リネックスのねじソムリエでは、豊富な経験と取扱い商品を組み合わせて、課題を解決できる方法を提案しています。締結部品での困りごとがあれば、ぜひ相談をお寄せください。

参考文献

1)
ねじ・機械要素が一番わかる,大磯 義和 著
2)
絵とき「ねじ」基礎のきそ,門田 和雄 著
3)
ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語, ヴィトルト・リプチンスキ 著
4)
種子島から世界・未来に向けて, 社団法人 日本ねじ工業会 発行
5)
絵とき「めっき」基礎のきそ,プレーティング研究会 編者
6)
メイカーのための ねじのキホン,門田 和雄 著

取材協力

株式会社丸エム製作所、株式会社神山鉄工所、種子島開発総合センター「鉄砲館」