よむ・みる・わかる・役に立つ!ねじソムリエの「ねじのちょっといい話」第3話 ねじの歴史と最新トレンド
誰もが一度は触ったことのある、身近な部品=ねじ。その形や使い方には意外な歴史が隠れています。今回は、ねじの歴史や最新のトレンドを取り上げ、ねじの仕組みや注意点について「ねじソムリエ」がわかりやすく解説します。
よむ・みる・わかる・役に立つ!ねじソムリエの「ねじのちょっといい話」第3話 ねじの歴史と最新トレンド
Part 1はじまり、はじまり〜。
ねじの「日本史」
日本史の教科書に必ず登場する1543年(天文12年)の「鉄砲伝来」。これが日本におけるねじの歴史のはじまりでもあります。種子島に漂着したポルトガル人から購入した2丁の火縄銃。領主の種子島時堯は、刀鍛冶の八板金兵衛に火縄銃の複製を命じましたが、銃身の後端を密閉する尾栓(びせん)と呼ばれるねじの作り方が分からず、失敗の連続でした。火縄銃の製作に苦心する金兵衛のため、ポルトガル人のもとに嫁いだ金兵衛の娘、若狭。若狭は海を渡り、その翌年、鍛冶師を連れて帰島。この鍛冶師からねじの製法を学んだ金兵衛は、火縄銃の伝来から約1年で見事に国産化に成功したのです。種子島には、金兵衛の娘、若狭に関するこんな伝承も残されています。
さて、時は流れて現代、ねじを製造する工場は大阪府に多く、とりわけ東大阪は、ねじを中心とするモノづくりの盛んな地域です。そのきっかけは江戸時代、京都向けのかんざしに使用する銅の線材が必要となり、線材を作る伸線加工が行われるようになったことにあると言われています。また明治時代になると、大阪府と奈良県の県境にある生駒山から流れる急流を活用し、水車を動力とした伸線加工が行われるようになり、鉄線による針金や釘、金網を作る工場など、当時需要が高かった製品を作る工場がこの地域に増えていきました。ねじの材料にはワイヤーを束ねたコイル材を使用しますが、材料を調達しやすい東大阪の環境が、現代のモノづくりの町につながっているとも言えるでしょう。
ワイヤーの写真
Part 2メートル?インチ?
ねじの「世界史」
ねじの歴史を語る上で欠かせないのが、規格の話です。日常的に使用されているねじ山の種類はメートルねじと呼ばれ、サイズ表記の際、大きさをMで表します。日本のJIS規格は、ISO(国際標準化機構)に沿ったメートルねじが基本となっていますが、1965年にメートルねじを導入するまでは、イギリスのウィットねじ(W)やアメリカ・イギリス・カナダ3国のユニファイねじ(UNC)のインチねじ系と、メートルねじが混在して使われていました。
互換性がないと部品の調達に無駄が多くなるため、貿易が増えるとともにねじの規格を統一する必要性が高まり、現在のJIS規格の形になりました。JIS規格は現在も少しずつ改訂が加えられており、市場性などの理由でインチねじ等を使用している分野や、最新のJISではない附属書品(旧JIS品)が流通している物も多くあるため、ねじの種類が多い理由の一つとなっています。
Part 3キホンのキ
ねじの6要素
ねじは軸にねじ山が作られている小ねじやボルトといった「おねじ」と、ナットといった穴にねじが作られている「めねじ」の2種類に大きく分類することができます。JIS規格に登録されているねじ以外に、メーカーで開発したオリジナルのねじもあるため、サイズなどの違いも含めると、市場で取り扱われているねじは数十万種類にも及びます。ねじを理解するためのポイントは、①ねじの材質、②リセス、③頭部、④ねじ部形状、⑤サイズ、⑥表面処理、という6要素からねじを知ること。そうすれば、それぞれのねじの役割や使い分けのポイントも理解しやすくなるでしょう。
ねじの材質からみると、その使い分けのポイントは、目的に合わせた耐食性(防錆)や強度、硬度、重さ、磁性、絶縁性といった電気特性などが挙げられます。同じ鉄やステンレスと呼ばれていても、規格品の種類によって材質が異なるため、ホームセンターなどでねじ選びに悩んだ場合は、次の表を参考にしてください。
同じ鉄やステンレスといっても、用途に合わせた材質が使用されているため、選定時には使用するねじの形状だけでなく、使用する環境で必要な耐食性や、材質によるねじの硬さ・強度といった機械的性質も考えてみると、使用時のトラブルが減るでしょう。ドリルねじといった硬い素材に使用するねじは、熱処理を施せる材質を使用して硬くしており、見た目では違いが分からないため注意してください。
耐食性の高い材質として一般的なステンレスのねじ。その歴史は比較的浅く、昭和32年(1957年)頃に国内での量産が始まりました。特に住宅ブームを背景に、1960年代になると、木製や鉄製サッシから、工場で大量生産するアルミサッシが使われるようになっていき、サッシを取り付けるねじに、十分な強度と耐食性のあるステンレスのねじが採用されたことで、ステンレスのねじは作れば売れるというほど盛況となり、広く普及していきました。
高強度と軽量化がポイントとなり、新しい材質が使われるようになってきています。ねじが高強度にできると、サイズダウン・省スペース化につながるのがその理由です。
ねじは高強度にするほど遅れ破壊と呼ばれるねじの破断リスクが高くなるため、耐遅れ破壊特性に優れた合金鋼が開発されており、製品化が行われています。今後は、トータルコストの最適化を通じて、新しい材質の採用も進んでいくと思われます。
参考文献
- 1)
- ねじ・機械要素が一番わかる,大磯 義和 著
- 2)
- 絵とき「ねじ」基礎のきそ,門田 和雄 著
- 3)
- ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語, ヴィトルト・リプチンスキ 著
- 4)
- 種子島から世界・未来に向けて, 社団法人 日本ねじ工業会 発行
- 5)
- 絵とき「めっき」基礎のきそ,プレーティング研究会 編者
- 6)
- メイカーのための ねじのキホン,門田 和雄 著
取材協力
株式会社丸エム製作所、株式会社神山鉄工所、種子島開発総合センター「鉄砲館」
「設備と管理」2023年8月号(トレンドには理由があった ねじソムリエが教える! ねじのポイント6)に掲載されています。